そのふたつ名は 2
こちらの続き。
そのふたつ名は「王殺し」
数多(あまた)の王を殺すが運命(さだめ)
<王殺しの>ランの手によって戴冠がなされると、<英雄王>ウィルフはおさなさの残る顔に笑みをたたえて告げた。
「我らが最初の騎士にして友、ラン・カイ・シよ。
我らが最初の命令(めい)も其方(そなた)に下そう。
其方の運命が我らに仇(あだ)なすその前に、
自ら命を絶つがよい」
ランはウィルフの横に立つ、今や王妃となった美しい娘をにらみつけた。しかし、竜族さえも震え上がるその眼光を受けてなお、娘は優しげな笑みをうかべたままであった。
笑みをうかべた花のような唇が微かに動き、呪詞を紡ぐ。
それはほんの一言。
ランにのみ届いたのだろうか。
ランは大きく目を見開き、よろけるように半歩下がった。
蒼白となったランは、すべてを体の内から押し出すように強く息を吐き出した。そして、ウィルフを慈愛に満ちた目で見、小さくつぶやいた。
「それが望みとあらば・・・」
ランが玉檀から降り立つと、玉前に集った百官はまるで波が引くように後ろに下がり、そこに真円の舞台ができあがった。
ランが腰の剣に手をのばしても、動く者は一人もいない。もしも<王殺し>が乱心すれば、彼らすべてをもってしても数瞬ともたぬことをだれもが知っていたのだ。
ランは腰の愛刀を抜き放ち、ゆっくりとかかとでリズムを刻み始めた。
竜殺剣とも称されるその愛刀は、かつて吸った竜王の断末魔の血の色に染まり、妖しくも美しい紅玉光をリズムに合わせて放っていた。
ゆっくりとした剣舞に合わせ朗々と歌い上げる英雄王との冒険の日々は、まるで息子を見守るような響きをもって百官の胸を打ち、涙せぬ者は無かった。
そして、冒険の幕が下ろされる。
「聞けや、聞け!
我が最後の一節(ひとふし)を!
見よや、見よ!
我が最後の一太刀を!
知れや、知れ!
我が最後の王たるは我である!」
大きく回した刀身は、ゆっくりとランの首に吸い込まれ、一瞬の後には、両断していた。
流れ出た血は大理石の床に染み込み、どのようにしてもふき取ることができなかった。
ゆえに、この謁見の間は、龍血の間と呼ばれることとなった。
ウィルフ・サガ:「最後の剣舞」より
<英雄王>の戴冠より2千年を経た今も、人々は言う。
「龍血の間には魔女の呪詞が残っている」
「それはまるで<王殺し>の血を取り囲むように」
「龍血に近づけば、お前にも聞こえる」
「ぞっとするほど美しい声が嘲るように囁くのだ」
「『妻殺し』と」
イー・シュトームが書に曰く、<王殺しの>ランは英雄王の戴冠の後、英雄王と袂を分かち、<忌まわしきものの王>と対決したと。
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コメント
美麗です~(´∇`)眼福眼福…
ドール写真でこれだけ表現できるんですね。
03ヘッドはやればできる!と思い、
最近ヒゲ兄貴(顎割れ)などやってみてます。
なんかオマヌケになってしまうのは、
私がふざけた人間なせい?!w
投稿: pumira | 2005/12/01 16:56
pumiraさん。
管理人です。コメントありがとうございます。
> 顎割れ
渋いオヤジドール好きとしては、それは是非拝見したい(^^。
> オマヌケ
酸いも甘いもかみ分けた余裕の見せるコミカルさもあるかと。
投稿: freya | 2005/12/03 17:44