« 小花 | トップページ | L-AIR »

2006/03/13

そのふたつ名は 3

こちらの続き、というか、もっと前の話。


そのふたつ名は「王殺し」
数多(あまた)の王を殺すが運命(さだめ)

いつも夢を見る。
たぶん、悪夢だ。
おれの足下に斃れているのは、血の海に沈んでいるのは、たったいまおれに呪詛を吐いたのは、「王」。
偉大な王がいた。愚劣な王がいた。強大な王がいた。脆弱な王がいた。……いくつもの顔。
最後の顔が浮かんだとき、おれは目を覚ます。声にならない絶叫とともに。

0603-0700
あれは誰だ?
最後の一人は?
おれの呪われた運命の最後に登場するのは?
その名をおれは知っている。未来のことだというのに。
思い出すことを拒絶する。胸が痛む。心が痛む。

0603-0701
「……」
自分にも聞き取れないようなつぶやきがもれる。それは、最愛の人の名。
もう一度、声を出す。
「ジン・ジャン・キ」
かつてのおれの妻。<舞月姫>とあだ名された美しくも恐ろしい王女。

0603-0702
おれは笑い声をあげる。暗い、陽の光の中では存在さえ許されないほど暗い笑い。
まるで神になる方法を見いだした悪魔のように、おれは二つの名が違うことに気付いて笑うのだ。

最後の一人になる者。お前が何者かはあえて思い出すまい。
ただ、憶えておくがいい。おれの名を。
おれの名は、ラン・カイ・シ。<王殺し>と呼ばれる男。

ウィルフ・サガ:「厳冬の夜に」より


イー・シュトームはその書の中で、ここに「ウィルフ・サガ」第二の矛盾を指摘する。
<王殺しの>ランが最後に殺すものが「最愛の人」であるなら、「最後の剣舞」で自らを殺したランはナルシストであったのか?
イー・シュトームは数々の物語の中からその反証を挙げていく・・・

|

« 小花 | トップページ | L-AIR »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: そのふたつ名は 3:

« 小花 | トップページ | L-AIR »