D.E. scene1151
ローニンと別れたフェーンは、リンの捕らわれている牢を求めてひたすらに駆けていた。
そして、時にドラゴニアンをやり過ごし、時に罠と謎を乗り越え、ついに牢の入り口にたどり着いた。
そこには・・・
まるで彫像のように微動だにせず、腰を下ろしているドラゴニアンの姿があった。
その、神々しいまでに力強い姿に、フェーンはしばし呼吸さえ忘れて見入ったのだった。
実際の時間にすれば、ほんの数十秒だったかもしれない。
フェーンはハッと我に返り、思案をめぐらせた。
このドラゴニアンの前を横切らなければ、牢にはたどり着けない。
・・・
眠っているのか、本当に彫像なのか、これだけの時間まったく動かない。
フェーンは意を決して、足音をたてないようにゆっくりと歩き始めた。
二歩、緊張で咽がカラカラに渇く。
三歩、膝ががくがくと揺れる。
四歩、全身の筋肉が収縮し、痙攣する。
ついに、ドラゴニアンの正面に達した。
五歩、踏み出そうとした瞬間、微かに、フェーンの頬を風がなでる。
スッと、何の前触れも無く、フェーンの前にドラゴニアンが立っていた。
あまりのことに、フェーンの目は見開かれ、グッグッとおかしな音をたてて息を吸い込んだ。
深く、静かな声が、打ち寄せる波のように響いた。
「小僧、引き返して人間の世界に戻るがいい。ワシの思索を邪魔したことも含めて大目に見てやろう」
フェーンは、壊れた首振り人形のようにガクガクと首を横に振る。
「小僧、今一度だけ言おう。去れ」
フェーンは、瞬きもせず見開いたままの瞳でドラゴニアンをにらみつけ、大きく肩で息をしながら吐き出すように叫びを上げた。
「いやだ!!!」
ドラゴニアンはグッと身を乗り出すようにすると、一瞬目を閉じ、次の瞬間にカッと見開いた。
その刹那、フェーンは黒くスパークする眼光をまさしく感じ取った。もちろん目が光を放ったわけではない。しかし、世界がその瞳に吸い込まれるかと思うほどそれは大きく、その瞳が世界そのものであるかと思うほどそれは深く・・・。
神を目の当たりにした人間が己の無力さを知るように、心弱いものを圧倒して命を奪うほどの力を持った『奪命の眼光』。
フェーンの体から力が抜け、糸の切れた操り人形のように前のめりに倒れこんでいく・・・。
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