D.E. scene1153
ダンタロスはまっすぐ向かってくるフェーンに苦笑しつつ、左腕を振るった。それは、爪で切り裂く動きではなく、フェーンの体を掴み取ることを意図したものであった。
爪があたらぬように慎重に伸ばした腕が、小さな体をつかむ寸前、その姿が掻き消えた!
「!」
フェーンは体を床に投げ出すようにして彼の股の間をくぐり、彼の後ろに回ったのだ。
とっさに振り切った腕を逆に振り、裏拳をたたきつけた!
フェーンの小さな体はそのまま数メートルも宙を舞い、ごろごろと床を転がってとまった。
ガクガクと崩れそうになりながら、フェーンがゆっくりと立ち上がる。
その瞳の炎は、いまだ消えていない。
グッグッグと咽がなった。ダンタロスは楽しそうに独り言ちる。そうだ、我が友フェーンも幾度と無く立ち上がった。切り裂かれようと、たたきつけられようと、ワシに向かってきた。いま少し、この小僧を見てみよう。
フェーンは、走り、飛び、かく乱する。捕まえようとする腕をかいくぐり、隙を突いて後ろに回る。
ダンタロスは、爪があたらぬように、致命的な打撃とならぬように、慎重に腕を振る。
スピードをコントロールしながら腕を振るのは、最速の爪を振るよりも体力を使う。さらに、慎重に繰り出す一撃は、彼の神経を疲弊させた。
時間とともに、ダンタロスの体温が上がっていく。それは彼の予想を遥かに上回るペースであった。
そして、上がりすぎた体温は、体力を急激に消費していった。
クルクルと周りを飛び回るフェーンの小さい体を追うために、すばやく体を回すのも間に合わなくなりつつある。
ドラゴニアンの巨体は、長期戦には向かないのだ。
ダンタロスは無理な体勢から、体を回しつつ裏拳をたたきつける。
しかし、それよりも早く、フェーンはダンタロスの後ろに向かって飛んだ。
空中で、リンから預かった抜けない剣を鞘ごと腰からはずす。
着地の勢いとともに、フェーンの気合が響いた。
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