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2006/08/12

そのふたつ名は 4

こちらの続き、というか、ちょっと前の話。


そのふたつ名は「王殺し」
数多(あまた)の王を殺すが運命(さだめ)


その男がルガードを初めて訪れたのは、AG(ガロス以後)21年の冬のことであったと言われている。
冷たい小雨に濡れながら、男はつい最近完成したばかりの壮麗な門をくぐり、ルガードに最初の足跡を残したのだった。
西域から彫刻家を招いて彫らせたという壮麗な意匠と巨大さに、多くの旅人が呆然と見上げるのをよそに、彼は打ち沈んだ表情のまま、気にした風もなく、門をくぐり抜けた。

整然と区画整備された町並みの先に、水煙に煙るように取り壊し中の旧門が見える。
五十年ほど前まではミカドの別荘である白亜宮があることを除けば、隣接する広大な湖を生活の糧とする小都市であったルーラは、今やルーラ王国王都ルガードと名を変え、日々堅固な城塞都市へと変貌しているのだ。
今はこのような、街が生まれ変わっていく様がそこかしこで見られる。

視線を上げれば、雨を通しても、巨大・壮麗な白亜宮が圧倒的な存在感をもってそびえているのが見える。
<魔道王>アフノの住まう王城白亜宮は壮麗であるがゆえに堅牢さとは無縁であった。それゆえ、アフノは宮殿を囲む都市を拡張し、同時に堅牢な城塞都市へと改造する大事業を急ピッチで進めている。

男は、雨水が吸い込まれて行く不思議な石畳の上を歩いて行く。特に急いでいるようにも見えないが、雨を避けようと小走りに家路を急ぐ人々よりもその歩みは早い。


五十年前、世界帝国の帝都ミヤコが消失し、帝王ミカドも、帝剣ダインノタチも失われた。
帝位継承権者といえど、帝剣がなければミカドを名乗ることはできない。
世界は、分裂した。

時を同じくして、世界各地に大量の魔が現われ、人類の生活を蹂躙した。


日が落ち、街路が闇に包まれ始めると、大通りの上空に魔道の光球が浮かび始めた。
魔道の淡い光が、雨に打たれる石畳を照らす。


三十年前、一介の流れ者であった魔道師アフノは、魔の拠点の一つとなっていた白亜宮を掃討し、近隣諸都市に平和をもたらした。
近隣諸都市は彼に庇護を求め、アフノは、王となった。


男は旧市街に入った。このあたりは魔道の光球も浮かんではおらず、建物からもれる光だけが頼りだが、それさえも少ない。
うわさに聞いた「冒険者の店」をさがす。
取り壊された古い町並みの一角に、大きく門戸を開き、明かりと馬鹿騒ぎの声が吹き出すような店を見つけた。
男は微かに顔をしかめ立ち止まると、顔の水滴をぬぐった。見上げれば、頭上の派手な看板に「スクルドの店」と書かれている。
一瞬の逡巡の後に、店の戸をくぐった。


二十年前、<神人>ガロスが現われ、消えた。
魔の本拠地、かつてミヤコと呼ばれていた地にあった魔神の国も、消えた。

人類共通の敵のほとんどが消え去ると、世界は、群雄割拠の乱世をむかえたのであった。この後500年ほどを、後の史家は「英雄の時代」と呼び、常に英雄を生み出し続けたルガードの街を奇跡の街と呼んだ。


雨が激しくなればなるほど店の中は混んでくる。この店は、荒くれ者の集う店。まともな職を持つものは近づきさえしない。盗人宿とさえ呼ぶものもいる。実際、酒をのみ、騒ぎ立てる男達の姿は山賊どもの宴かと思わせるものがある。
山賊どもの間をぬって料理を運びながら、だけど、とスクルドは思う。

(この男達は夢を追って生きている。ほとんどは夢破れて屍をさらすでしょう。
だけど、そのなかで・・・
あそこでウルドのお尻をなでようとして蹴り倒された男は<銀眼王>。北に行って王になる。
あっちのテーブルの上で踊っている男は<嵐の渡り手>。「魔王」と相打って千年後まで語られる英雄になる。
いっしょに踊っている女は<魔女>・・・一万年の後書かれる歴史書にその名は記される。
そして、今入ってきた男は、・・・あぁ、すべてを失う人・・・<王殺し>と呼ばれる男・・・)

06080700


ウィルフ・サガ:「炎王殺し」より

「炎王殺し」の物語の中で、<妖精の王にして人間の王><英雄王>カリアリアカン・ウィルフルルートールス・ディーナナン、<王殺しの>ラン・カイ・シ、<守護者>ギル・デ・フラウが出会い、ともに旅をするようになった「奇跡の日」が語られている。
しかし、イー・シュトームは、三人が出会ったのはこれよりも遅くAG23年のことであったととなえている。
3人がなした偉業のうちの多くが、実はこの2年間に<王殺し>一人でなしたことであるというのである。

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