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2006/11/20

D.E. scene1231

竜姫は斃れたガルバトスを一瞥すると言った。
「まさかガルバトスが倒されるとは・・・不意をついて捕らえよとは言うべきでなかったか・・・」
目の前のローニンに鋭い視線を送る。
「のけい! そなたと争う気は無い!」
ローニンは、ゆっくりと刀を抜きながら答える。
「できぬ相談だな」
ギリギリと歯を食いしばる音が聞こえそうなほど、表情が険しくなる。
「そなたとはいえ、ただではすまぬぞ!」
「あの二人はどうした?」
「こむすめどもか?! 二度までもわらわの邪魔をしたのじゃ! 血祭りじゃ!」
「・・・そうか」
竜姫はふっと表情を緩め、諭すように語り掛ける。
「そなた、わかっておるのだろう? あの小僧は危険じゃ」
「「たかが人間の小僧」に何をむきになる」
再び、烈火のごとき気が、ローニンに吹き付ける。
「あの瞳を見たであろう! あれは火が属じゃ!
あの歩みを見たであろう! あれは土が属じゃ!
あの叫びを聞いたであろう! あれは金が属じゃ!
あの涙を見たであろう! あれは水が属じゃ!
あの息吹を感じたであろう! あれは木が属じゃ!
あの小僧こそが! 新たな世界ではないか!」
ゴウと吹き付ける気を受け流し、ローニンは続ける。
「この世界たるお前は、新たな世界に駆逐されることを恐れるか。だが、フェーンが世界に到ることはあるまい」
「あの小僧が到らずとも、子が、孫が到るわ!!」
「・・・」
「通さぬつもりか・・・そなたはわらわの騎士であろうが!」
ローニンはかすかに悲しげな色を瞳に浮かべた。
「そうだな。あの時、おれはお前の名誉を守ると誓った。今こそ、その誓いを果たそう・・・」
「何をしようが世界の炎たるわらわを倒すことは出来ぬ! あきらめてわらわとともに来るがよい!」
「わが幼き日の幻影よ。おれの最高の技をもって遇そう」

ローニンが一瞬目を閉じて再び開けた時、空気が変わった。

それは、まるでグラスに水が満たされるように、空間に思念が満ちていくのだった。
声が聞こえるわけではない。ただ、そこにいるすべてのものの心にそれは響くのだ。

『天に剣あり』

ローニンの右肘が、天を撃つかのように上に上がる。
相反して、左の肩が地につかんばかりに下がっていく。

『地に脚あり』

ローニンの両足が大地を踏み締め、深く腰が落ちていく。
その姿は、天と地のはざまで卑小な人間が押し潰されるかのようであった。
06110900

『人間(じんかん)に身(しん)ありて、心(しん)あらず』

もとより、殺気などというものは放っていなかった。それは、そう、湖面を覆う波紋のように静かな剣気であったのだ。
今、その剣気さえなく、静かにたたずむ。
世界を覆った重い空気が、いつの間にか澄みきっている。

『我、空なるがゆえに、迅たらん』

ローニンの存在が、消える。見えないわけではない。ただ、世界に属することをやめ、「そこに在る」という意味を喪失したのだ。
竜が世界の炎であるごとく、その時まさに、ローニンが世界であった。

『竜人剣』

それは、開祖が竜のもとで修行して編み出したと伝えられる一子相伝の剣技。
そして、世界が始めて目にした時に、自身を殺すものはこれであると知ったもの。言わば、世界を殺すことを約束された技。

『奥義』

すべては限りなく短い瞬間の出来事。

『迅』

その力強くも静かな思念とともに、ローニンは世界そのものから、再びその一部となった。
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無限の速度で世界(ローニン)が世界(竜姫)を突き抜け、いかな竜姫といえど、二つに断ち割られた。

はずであった。

06110902

竜姫が目の前で交差させた腕は、輝く鎧に覆われた竜腕と化して傷ひとつなくそこにある。
「はっはっは! さすがそなたじゃ! 竜にも劣らぬその力! じゃが、わらわには通じぬ! わらわを鎧うは竜鱗のみにあらず! この異界の鎧は貫けぬ!」
「・・・」
「わらわを倒しうる技では鎧を貫けぬ。鎧を貫く技ではわらわを倒せぬ。あきらめて、わらわとともに竜となるがよい!」

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